校舎一階の一番端。
放課後の音楽室は吹奏楽部の部室となっている。
今ここで練習しているのは、目前に迫った地区大会に出場するメンバーたちだ。
指揮者を務める部長の、鮮やかな棒さばきに統率された軽快な演奏が鳴り響く。
その中に一際目立つ少女がいる。
少女の名は岡倉柚葉。メンバーでは唯一の一年生部員である一方で、百七十近い部内一の長身の持ち主だ。
決して一年生部員の中でも目立つ方ではなかったが、大会を前に顧問の先生と部長によるメンバー選考を経て、一年生としては異例のメンバー入りを果たした。
当初は突然の事に戸惑いつつも嬉しかった柚葉だったが、漏れ聞こえる一年生ながらの抜擢に対してのやっかみの声。先輩を押しのけてのメンバー入りに対する責任の重さ。それらが影響してだろうか、地区大会が近付くにつれて日に日にお腹の調子が悪くなっていった。
ここ数日は特にそれが顕著だ。
昨日は、練習中にお腹が不穏な音をたてて、痛みと激しい便意に襲われ、練習中にも関わらず我慢出来なくなってトイレに駆け込んでしまった。
つつーっと、冷や汗が頬を伝う。
お腹を曲げたくなるのを懸命に堪えて、演奏を続ける。
昨日、練習中にトイレに行ったこともあって、二日連続という事態は出来れば避けたいところだ。
しかし、横目で盗み見た時計の針は、まだまだ練習時間の長いことを雄弁に物語っている。
視線を再び譜面に戻し、演奏に集中する。軽やかな運指が流麗なメロディを紡いでいく。
曲が終わり、また始まる。大会では課題曲と自由曲、それぞれ一曲ずつを演奏する為、大会前の練習はその二曲を延々と反復し続けることになる。
しばらくは、お腹の調子も平穏で、演奏に集中出来ていた。
だが、再びお腹の方がグギュルルル──と、嫌な音を立て、じわじわと痛みが強くなり便意が増してきた。
これ以上我慢し続けるのは難しい。そう思った矢先。
「っ!」
急激に強くなる痛みと共に、強烈な便意がきゅっとすぼめた肛門を強引にこじ開けようとする。
反射的に、漏らすまいと力を入れると、僅かに音がずれる。
ほんの一瞬のミス。だが、それさえも聞き逃さない耳の持ち主がいた。
「岡倉さん!」
叱責を飛ばしたのは部長だ。
「す、すみません……」
少し、へっぴり腰になりながら、柚葉は謝った。
「あの……」
「何?」
むっとした表情で、部長が聞き返す。
「おトイレに……」
先輩の睨みに恐怖しつつ、なんとかそれだけを絞り出す。
柚葉の言葉に、クスクスと忍び笑いが漏れる。
「はぁ〜」
盛大に溜め息をついて、指揮棒でドアの方はクイクイッと指し示す。
「すみません」
何度も頭を下げて、音楽室を出ると急ぎ足ですぐ近くのトイレに入る。一刻の猶予もならない。それでも柚葉は、手前の和式ではなく奥の洋式を選んだ。
「んっ!」
ここで油断したら悲惨なことになる。そう思い、集中を切らさずにスカートと下着を脱ぎながら便座に腰を落とす。
次の瞬間。
ブバッ! ブリュ……ブシャアアアアアッッ!!!
肛門が引き裂かれそうな痛みと、激しい炸裂音。
痛みと、一気に広がる悪臭に顔をしかめ、慌てて水を流す。
そしてまた、お腹に力を入れる。
「んん……くっ、はぁ……」
ブリュリュ……ブジュアアア……。
「っ……はぁ……はぁ……」
出し切ったような、でもまだ出そうな微妙な感じに柚葉は困惑する。
「んんんっ!」
思い切り力を入れてみるが出ない。かと言って、やっぱりまだ残っているような気がする。出来れば全て出し切って、すっきりして戻りたい。その一方で、あまり長くトイレに篭もっていて遅くなっても先輩方に迷惑を掛けることになる。
けれど、今の状態だとまたトイレに行きたくなってしまいそうな、気がする。
仕方ない。その時は謝って、もう一度トイレに行かせてもらおう。
トイレットペーパーを何枚も使って汚れをしっかりと拭き取り、水を流す。
個室を出て、石けんでしっかりと手を洗って、音楽室に戻る。
「すみませんでした……」
においがしないか、少し気になりながら自分の立ち位置に戻る。
トイレに行っていた時間で「大きい方」というのは明らかだ。
部長はその言葉に、特に表情を変えることもなく、再び何事もなかったかのように練習を再開する。
柚葉も気持ちを切り替えて、練習に集中する。
どのような理由で選ばれたのかは分からないが、一年生として唯一メンバーに選ばれた以上恥ずかしい演奏は出来ない。もちろん先輩方に技術や経験で敵うなんて思ってはいない。だが、練習や気持ちの面では、絶対に負けられない。
そう思ってはみるものの、お腹の調子は相変わらず嫌な感じが続いている。
これ以上悪くならないでと願うが、少しずつ、だが着実に状況は悪くなっていく。
なるべく気にしないように、と演奏に集中する柚葉だったが、時折苦しげな表情が見え隠れするようになってきた。
どうしよう。やっぱりトイレに行った方がいいかな?
もしこれが家だったら、それこそすぐにでも行っているだろうと思う。だが、今は部活の練習中。それも大会前の、非常に大切な時期だ。一年生でありながら、これ以上迷惑を掛けるような行為はやっぱりよくない気がする。そうは思っても、やっぱりきつい。お腹痛い。トイレに行きたい。
しばらくそうして葛藤が続いていたが、その間にも限界はすぐそこまで来ていた。
「っ!」
ジュッ──。
僅かに、肛門が緩み水下痢が少し噴き出してしまった。
量は少ないが「おもらし」してしまったことに動揺する。音を聞かれなかった? においはしない? そわそわと、落ち着かない様子で左右に視線を向ける。
両隣の先輩は、どちらもじっと指揮棒の動きに集中している。
もう、これ以上の我慢は無理だ。次に曲が止まった時に、トイレに行かせてもらおう。そこまではなんとしても我慢しないと……。
しばらくして曲が終わると、柚葉はおずおずと手をあげた。
「どうかしたの?」
「あの……おトイレに……」
じっと柚葉を見つめる部長の視線に言葉尻が弱々しくなる。
「……そうね」
ほっとした、次の瞬間。部長が更に続ける。
「練習は後少しだから、我慢しなさい」
「えっ……でも……」
「聞こえなかったの?」
「はっ、はい……でも……」
「それじゃあ今のところもう一度」
少しおかしな空気が音楽室内に流れる。
それまで演奏を続けながらもなんとか我慢してきた柚葉だったが、部長の言葉に気持ちが折れてしまった。
もう駄目。
プジュッ──。
再び、先ほどよりも多くの水下痢が噴き出した。
お尻のあたりが暖かく、ぬるぬるしている。
そして、すこし臭い。
「岡倉さん?」
誰かがそう呼びかける。
「あっ……やぁ、駄目!」
ブジュ、ブリュリュ、ブジャアアアアァァ!!!
お腹を押さえ、中腰になる柚葉。一気に噴き出したドロドロの水下痢が、下着を茶色に染め上げて行く。薄い下着の布地を水分が染み出して、足下にビシャビシャと音を立てて飛び散る。
「きゃあっ!」
「やだっ!」
柚葉の周りにいた部員は、悲鳴を上げて柚葉から距離を取る。
誰もが驚きで足を止め。においと、床に広がった茶色の汚れに眉をひそめる。
「くっ……はぁ……い、やぁ……」
一度出し始めると、止まらない。
ブブッ!ブババッッ!!ブジャアアアアアアア!!
「ううっ……」
更に肛門から吐き出された、液体に近いドロドロの茶色の下痢は下着に収まりきらず、お尻から内ももを伝って次々と床に流れ落ちていく。
柚葉はもうどうすることも出来ず、周りの視線から逃れるように手で顔を覆い、嗚咽を漏らしてしゃがみ込んでしまった。
そして、その足下には悪臭を放つドロドロの茶色の下痢が広がっていた。