『隣の家の少女』

夏の大会を最後に部活を引退すると、私の肩書きは『キャプテン』から『受験生』になった。

夏休みが終わり、学校が始まると学校生活も随分様変わりした。

とりわけ部活を引退した影響は大きく、それまで授業が終わると夕方遅くまで部活漬けだったのが、今は授業が終わると真っ直ぐに家へと帰る日々だった。

しかし、その日は進路相談があったため、いつもより遅い時間の下校となった。

全授業終了直後でもない、部活終わりでもない時間帯の帰り道は驚くほどに人通りが少ない。特に大通りから自宅のあるマンションへと続く細い道に入ると尚更だ。

以前見た、人のいなくなった世界に取り残された映画を思い出す。このまま、誰とも遭遇せずに家まで辿り着けるだろうか? そんな事を考えながら、マンションまであと少しのT字路で小柄なセーラー服姿の少女と遭遇した。

色の白いすらりとした細い足。染み一つ無い純白のセーラー服と、鮮やかなコントラストを描く紺のプリーツスカート。そして見覚えのあるやわらかに揺れるポニーテール。

少女が少し驚いた表情でこちらを見る。

やっぱりそうだ。隣の家の女の子だ。

これは千載一遇のチャンスと私は彼女に声を掛けた。

「今帰り?」

最初が肝心だ。相手を驚かせないように優しい口調を心掛ける。

隣の家と言うと親しい間柄を思い浮かべそうなものだが、彼女のの家族はこの夏の終わりに私の住んでいるマンションに引っ越して来たばかりなのだ。その為、隣と言っても会話をしたことは、実はまだ一度もなかった。

唯一にして最大のチャンンスであった、彼女の一家が我が家に引っ越しの挨拶に来た時、残念なことに私は不在だった。

もっとも、その日の事は後で母から話を聞いた。彼女の一家は両親と彼女の三人ということ。共働きで二人とも忙しいということ。娘は引っ込み思案なところがあってこっちで友達が出来るかちょっと心配ということ。他にも色々と聞いた気がするけど、私が覚えているのはこれぐらい。多分、他は興味を引かれなかったからだと思う。

ちなみに我が母はその時に「それならウチの涼子に任せるといいわ」と安請け合いしたらしい。

けれど結局、彼女と会う機会は無く、気がつけば夏休みも終わっていた。

正直に言おう。私は母の話を聞いた時から彼女に対していたく興味を持っていた。更に言えば、一度少し離れた場所から私服姿の彼女を見掛け、その思いはより強くなっていた。

ほっそりと可憐で繊細さをまとったポニーテール姿の少女。それは私が幼い頃から欲しいと思っていた「妹」像にぴたりと一致した。血の繋がりは全くないけれど、姉妹のような関係を築くことが出来たらと、何度も夢想した程だ。

「あ……はい」

小さく形の良い口から、少し高い澄んだ声が紡がれる。

えーっと……。

「市瀬……理奈ちゃんだよね? 隣の」

そう。彼女の名前は市瀬理奈。うん、よく似合ってる。ついでに言っておくと、私の名前は村上涼子だ。

「はい……えっと涼子さん?」

嬉しいことに彼女も私のことを知っていた。

「うん。良かった、名前知っててくれて。理奈ちゃんは今ぐらいの時間に帰ってくるのが多いの?」

彼女の着ているセーラー服は地元では進学校として有名な私立中学校の制服だ。

徒歩十分少しの私が通う中学と違い、おそらくバスで三十分ぐらいは掛かるはずだ。朝はその分早くに家を出ないといけないのだろう。だから、登下校時に遭遇することも無かったのだ。

「あ、いえ……いつもはもっと遅く」

少し困ったような表情で彼女で答えた。

そっか、いつもはもっと遅いのか。お互いにイレギュラーな帰宅時間にも関わらず偶然の出会いということになるわけだ。

「そうなんだ。今日が少し早かったのね」

「はい……」

そんな風に言葉を交わしながら、どちらからともなく歩き出す。

しばらく歩きながら、私は彼女を観察した。そうすると、少し様子がおかしいことに気がついた。彼女は少し俯き気味に歩きながら、時折手でお腹をさするような仕草を見せる。

「お腹の調子悪いの?」

ついつい気になり尋ねてしまった。

「えっ!?」

彼女は驚いた表情でこちらを見る。

訊いちゃまずかったかな? と少し不安になる。

彼女は少し恥ずかしそうにしつつも、こくりと頷いた。

「もうすぐ着くから、頑張ろうね」

私は少しでも負担減らしてあげようと思い彼女の荷物を持ってあげることにした。

最初は、さすがにそれはと渋っていたが、結局私の手には彼女の鞄と体操着入れ。

そしてまた二人で歩く。彼女は時折つらそうな表情を浮かべつつも、マンションの入り口まで辿り着いた。

「あっ……」

不意に立ち止まり、彼女の口から苦しそうな声が漏れる。強烈な便意を堪える彼女の身体はかすかに震え、思わず抱きしめてあげたくなる。

「大丈夫?」

私の問いに、彼女は少し潤んだ瞳でこちらを見上げる。

はっとするような美しい瞳に心奪われそうになる。

いかんいかん。

「少し、出ちゃった……」

どうやらお腹の中のものが少し出てしまったようだ。だが、特に大きな音もなく臭いもない。スカートの中を確認したかったが、周りに人の少ないとは言えさすがにこの公衆の面前では無理だ。

「もうすぐよ。急ぎましょ」

マンションの敷地へと入るアーチをくぐり、小さな前庭を抜けてエントランスホールへ辿り着く。ここからエレベーターに乗って私と彼女の住む六階まで上がるのだ。

そのエレベーターは運の悪いことに五階に止まっていた。彼女がボタンを押す。

もう限界も近いのだろう。彼女は周りのことを気にする余裕もなく、お腹を何度もさすり少しへっぴり腰の状態で微かに震えている。

エレベーターが到着する。早く乗りたい彼女を嘲笑うかのようにゆっくりとドアが開く。半分ほど開いたところで、彼女は強引に中へ飛び込む。慌てて、私も中へ入る。彼女は『閉』ボタンを連打する。そしてまた先ほど同じように、ゆっくりとドアが閉じる。

この時、私は一歩後ろに下がりながら、ふと彼女がこの場で下痢をおもらしするのを見たいという思いに駆られた。純白のセーラー服姿の可憐な少女が、下痢おもらしをして茶色のドロドロとした下痢を辺りにブチ撒けるを想像し、奇妙な感覚に包まれた。

もっとも後少しで家に着く。そこまでは、意地でももらさないだろう、と思っていた。

だが、その時は突然訪れた。

丁度、三階から四階の間だった。

「あっ、いやっ!」

突然、大きな破裂音が鳴り響いたかと思うと、あっという間に、強烈な悪臭がエレベーター内を満たし、私の鼻を刺激する。

まだ、彼女の排泄は止まらない。

「……やだ、止まらない……」

ビチ・ブチュ・ブジュ・ブリュ……このどれかのようで、どれでもない混沌とした音が堰を切ったように次々と繰り返す。

そしてついにスカートから伸びた細く白い足を茶色の筋が伝い始めた。

一本。二本。三本。

細い筋。太い筋。

それらが絡まり、白い足を、そして白いソックスを徐々に茶色へと染めていく。

更に、下着に収まりきらなかった下痢がボタボタと床に落ちる。

あまりにも凄まじい出来事に、エレベーターがいつの間にか六階に到着していることにも気付いていなかった。目の前でドアが閉まりかけて、私は慌てて「開」ボタンを押した。

彼女は肩を震わせ泣いている。

私は興奮を隠しながら、彼女に声をかける。

「よく頑張ったよ。さあ……お家に行きましょ」

肩を抱き、そっと前へと押し出すようにして歩き出す。エレベーターを降り、廊下を家へと向かう。時折、グチョグチョと粘り気のある音が聞こえ、気になって後ろを振り向けば廊下には茶色の下痢跡があちこちに散らばっていた。

彼女の家の前に辿り着いた。このすぐ隣が私の家だ。

「お家の方は……たしか、共働きだよね?」

「はい」

「鍵は鞄の中?」

「はい」

私が彼女に鞄を手渡すと、すぐに探し始める。私もそうだが、鍵はいつも同じ場所に仕舞っているのだろう。動きに迷いがない。けれど、そこで手が止まる。もう一度、同じ場所を覗き、手を入れてがさごそとするが、その手は何も掴むことなく出てきた。

もしや……。

「もしかして鍵、忘れたの?」

私を見上げる彼女の瞳にまた涙が浮かんできた。ぽろぽろと零れる涙。

「お、落ち着いて」

慌てて声を掛ける。すぐにどうすべきか答えは出た。

「ねえ、私の家に来ない?」

少しかがんで、同じ目線で彼女に優しく話しかける。

涙に潤んだ瞳がじっとこちらを見つめる。

「ねっ」

彼女はこくりと頷いた。

幸い我が家は今日のこの時間、誰もいない。そのことに感謝しながら、鍵を開ける。

足下が気になってか、中へ入るのを少し躊躇していた彼女だが、私が少し強引に中へと押し込んだ。

「ちょっと待ってて」

二人分の荷物を一先ず中へと運び入れ、そのまま古い新聞紙を取りに行く。それを開き、玄関から風呂場までの即席カーペットを敷く。これで多少の汚れも大丈夫。

「理奈ちゃん、さあお風呂場まで行きましょう」

彼女の手を優しく励ますように握りしめて、歩き出す。それに応えるように彼女もぎゅっと握り返し、歩き出す。私は彼女の小さな手のぬくもりが心地良く、こんな状況にも関わらず嬉しくなってしまった。

もっともそれほど長い距離ではないので、すぐ脱衣所に辿り着く。

もう目と鼻の先には風呂場。それでも彼女はまだ私の手をぎゅっと握っている。

「後は自分でなんとか出来る?」

本音を言えばスカートの中に隠れて見えない惨状に対して興味があった。けれど、さすがにここから先の部分は繊細な要素を孕んでいる。

私だったら、こんな格好をいつまでも見られるのは嫌だ。

彼女も同じだろう。そう思ったから尋ねてみたのだ。

だが、意外なことに彼女はうつむき加減で首を左右に振った。

そのことに驚く一方で、私は大きな喜びと興奮を感じていた。

「分かったわ。でも、ちょっと待ってて。あ……そうだ、理奈ちゃんも先に上だけ脱いで」

大丈夫よ、と言ってゆっくりと手を離す。

私は濡れても構わないようにと制服を脱いでTシャツにパンツという姿になる。

私が制服を脱ぐ間に、彼女も純白のセーラー服を脱ぎ終えていた。私はそれを受け取り、型くずれしないようにハンガーに掛けた。

「よし、準備オッケー」

あまり大きくないマンションの風呂場は、二人で入ると結構ギリギリだ。油断してると、それこそ身体が触れてしまう。私はあまり気にしない、むしろ触れてみたいとの思いもあったが、彼女の方がどう思っているのか分からないので、なるべく慎重に動くことにした。

「さて……それじゃ、後ろ向いてくれるかな」

私の言葉に彼女は素直に従った。

くるりと私の方に向けたスカートのお尻の周辺は、元が紺色にも関わらず茶色がかって見える大きな染みに包まれていた。

しゃがみ込むとその部分が丁度目の前にやってきた。

そっと手を伸ばす。まず最初はスカート。すっかり汚れているが、それでもこれ以上汚れないように慎重に下ろす。

すると、その向こうから大量の下痢で茶色に染まったパンツが姿を見せる。染みはスカートのそれよりも更に大きく、水分を多く含んだ大量の下痢の重みでパンツは垂れ下がり、真後ろから見ると白いはずのパンツはほとんど茶色しか見えなかった。

途中、歩いてる時に沢山落ちたと思っていたが、それでもまだこんなに膨らんでいるのにはびっくりした。うんちってこんなに沢山出るのか、と感心するほどだった。

スカートを脇にどけて、洗面器を彼女の真下へと持ってくる。

「パンツ下ろすよ」

一言声を掛けて、彼女のパンツに手を掛ける。下ろしていくと、予想以上にずしりと重い。

少しずつ、彼女のお尻があらわになる。思った通り、きめ細かく色白の綺麗なお尻だ。だが、その大部分はパンツ同様に茶色の下痢で覆われていた。

パンツを投げ入れた洗面器を脇にどけると、蛇口をひねりお湯を出す。シャワーで彼女の汚れたお尻を丁寧に洗い流して行く。ある程度汚れが落ちると、お湯を染み込ませたタオルで優しくお尻から前まで、しっかりと汚れを拭う。

「もう大丈夫よ」



風呂から上がると着替えを済ませ、私の部屋に移動した。

サイズの問題もあって心配していたパンツは、彼女が替えを持っていて助かった。

お互いにパンツとTシャツ──Tシャツは私のを貸したのだが、予想以上にブカブカで二人揃って声を上げて笑ってしまった──というラフな格好で、ベッドを背もたれにして並んで座る。

しばらくはゆっくりとして、コップに注いだウーロン茶を飲んだりした。

そうして、少し落ち着いて来たタイミングを見計らって私は疑問をぶつけてみた。

「ねえ、パンツの替えを持ってたってことは、今日みたいなことよくあったりするの?」

「えっ!?」

驚きの表情を浮かべた彼女に、私はちょっとしまったかなと思った。あまりにも質問がストレート過ぎた、と。

「ごめん、へんなこと訊いちゃって。忘れて」

「私、お腹が弱くて……」

少し間を置いて、か細い声で彼女が応えてくれた。

「学校や外で、何回も。それで、なんで我慢出来ないの? なんで、トイレに行かなかったの? って、よく怒られてしまって……」

「私にも怒られると、思ったの?」

「はい……」

私は彼女の肩に手を回して、身体を抱き寄せる。

「大丈夫よ。私は怒ったりなんてしない」

何度も妄想した、妹に優しくする姉。あるいは、学校で後輩の悩み相談を受けた時のように。そして、彼女の下痢おもらしは私にとっての喜び。何を怒る必要があるのか、むしろ──

「何度だって、汚れたお尻を洗ってあげたいぐらい」

げっ、口に出してしまった。

彼女がじっとこちらを見上げている。ヤバイ。折角ここまで来て、軽蔑されてしまうような発言を。

全てが、終わった──そう思った次の瞬間。私を見つめる彼女の表情が劇的に変化した。

「うれしい!」

逆に向こうから、こちらに抱きついてきた。

「わわっ」

「あっ! ごめんなさい!」

顔を真っ赤にして、彼女は私から離れてしまった。ちっ、残念。

けれど、彼女の本心には少し触れた気がする。

いつも粗相をして何度も怒られて来た彼女は、そういった事をしても許してくれる存在がきっと欲しかったのだ。

いいでしょう。その役目、私にお任せあれ。

「いいのよ。さあ、こっちにおいで」

私が手招きすると、彼女はおずとおずと傍へ来る。

先手を打って、私が彼女の身体をぎゅっと抱きしめた。

「私はね。理奈ちゃんみたいな、妹がずっと欲しいなって思ってたの。仲の良い姉妹にいつも憧れて、あんな風に妹に優しくしてあげられたらなって」

「私が、妹でおもらししちゃっても?」

「うん」

「涼子……お姉ちゃん?」

恥ずかしそうにしながら、そう呼んでくれたことが凄く嬉しかった。

心地良い「お姉ちゃん」という響きに涙が出そうになる。

「なーに?」

「お腹……痛い」

「また、うんちしたくなっちゃった?」

「……うん」

「いいよ、ここで出しても」

「本当にいいの?」

「うん。そのかわり、お尻をこっちに向けてよく見せて」

「……こう?」

私の前に立ち、お尻をこちらに向けて振り返る。

「あ……出る。出ちゃう……!」

大きな音と共にパンツが一気に茶色に染まっていく。

「やだ……まだ出ちゃうよ」

次々と下痢が音を立てて出続ける。

徐々にお尻が大量の下痢で膨らむ。更に重みで、少しずつ下へと下がる。

「はぁ……全部、出ちゃった」

私は立ち上がり、理奈の手をそっと握る。

「さあ、もう一度お風呂に行こ」

「うん。お姉ちゃん……」

理奈が私の手をぎゅっと握り返す。

私はその時、替えのパンツどうしよう? と思っていた。