御堂家の食卓は、氷見華・夏奈美の双子の姉妹が高校に入学した時から双子だけというのがほとんどだ。双子の両親は共に紀行作家で、高校入学まではどちらかが必ず家にいたのだが、双子が高校に入学してからは両親揃ってほとんど家にいることが無くなった。
「でねっ、ゆっこがそれは違うって言うのよ……って、氷見ちゃん聞いてる?」
いつものように夏奈美はその日の出来事を話し、それを氷見華が聞く。けれどいつもは様々な反応を返す氷見華からの反応があまり無い。
夏奈美が、どうしたの、といった表情で氷見華の方を見る。そこで氷見華が食事にほとんど手をつけていないことに気づいた。
「……ん、ちょっと食欲がなくて」
「大丈夫?」
心配そうな表情の夏奈美。
「大丈夫よ」
氷見華は夏奈美を心配させまいと務めて明るく声を出すと食事に箸を伸ばした。そして一気に口へと運ぶ。
「うっ……!!」
途端に吐き気が込み上げて来た。慌てて口許に手をやるが、少量の吐瀉物がそれより早く食卓に零れ落ちる。手の平にも暖かな吐瀉物の感触が広がる。
「ちょっ、ちょっと大丈夫!?」
夏奈美は慌てて近くにあったタオルを手に取ると氷見華の口にあてがった。
「……ごめん」
「いいから。気にしないの。それよりまだ吐きそう?」
「……大丈夫」
氷見華はタオルで口許を拭き、机に零れた吐瀉物も拭き取ろうとする。その手を上から夏奈美が握りしめた。
「後始末は私がやっておくから。氷見ちゃんは休んだ方がいいわ」
「うん。そうする……」
そう言うと氷見華は先に部屋に戻った。
深夜。双子の部屋は大きな部屋をベッドと机を使ってちょうど半分に分割して使っている。ベッドの間にはカーテンで一応の仕切りとしているがいつも開きっぱなしだ。
突然、氷見華が布団を跳ね除けて身を起こした。
「はぁ……はぁはぁ……」
肩で大きく息をして、傍に置いてあった洗面器を手に取る。
「うええっ……おおぇっ!! げほっっ……ぐっ、げええええっっ!!」
洗面器を両手に挟み込み激しく嘔吐する。
「うん……えっ」
突然耳元で大きな音がして、何事かと目を覚ました夏奈美は、そこで氷見華が激しく嘔吐しているのに気づく。
「っ、氷見ちゃん大丈夫!?」
言葉をかけるながら慌てて置き上がり氷見華の背中をさする。
「げほっ、げほっ……ぅげっ……っはぁはぁ」
少しえずくがどうやら治まったようだ。
「落ち着いた?」
後ろから抱きすくめるような姿勢の夏奈美は耳元でそっと囁いた。
「……っ……なんとか」
「じゃ、ちょっと待っててね。水持って来るから」
夏奈美はそう言うと部屋から出ていった。
「……はあっ」
その後ろ姿を見つめ、夏奈美が部屋を出ると氷見華は溜め息をついた。
同じ双子なのにどうしてこんなに身体が弱いのだろう。夏奈美は病気とは無縁だというのに。そしていつも夏奈美に迷惑をかける。健康には充分に注意を払っている、それでも体調を崩す事がよくある。
「おまたせ」
夏奈美がポカリスエットのペットボトルとコップ、それに新しい洗面器を持って来た。
「はいっ」
夏奈美はコップにポカリスエットを注ぐと氷見華に手渡した。それを受け取ると氷見華はまず口の中を漱いだ。先程まで口内に残っていた苦味と粘り気が無くなると、口の中のものを洗面器に出す。そして、コップの残りを一気に飲み干す。
「ふぅ……」
更にもう一杯コップに注いで飲む。それをじっと見ている夏奈美。
「んっ」
その視線に氷見華も気づく。
「氷見ちゃん!」
夏奈美はずずっと氷見華に顔を近づける。
「夏奈ちゃん?」
夏奈美は自分の額を氷見華の額にくっつける。
「熱があるわ。さあ、寝なさい」
「えっ、でも……」
「いいからさっさと寝る! 後は私に任せて」
そう言われると氷見華としては頷くしかなかった。
「ご免ね、夏奈ちゃん……いつもいっ」
「それは言わないで」
氷見華の言葉を遮り夏奈美は優しく、だがきっぱりと言った。
そして、夏奈美に支えられながら床に就いた氷見華は疲れが一気に身体を包み込み眠りへと落ちていった……。
それを見届けると夏奈美は氷見華の吐瀉物がたっぷり入った洗面器を持って一階へと降りていく。
その洗面器からは吐瀉物特有の酸味の効いた香りが漂ってくる。だが夏奈美はこの匂いが……氷見華のなら嫌いではなかった。
「……言えるわけないよね」
小さな頃から病気とは無縁の夏奈美は、病弱だった氷見華には自分がしっかりついていないと、と思っていた。だから、氷見華が嘔吐したりお腹を壊して下痢を漏らした時もそれが汚いなどと思う事もなかった。むしろそのたびに夏奈美は不思議な感覚に包まれた。身体の奥底が熱くなるような不思議な感覚に……。
目覚ましの音が部屋に響く。最初は小さな音、そして徐々に音が大きくなる。その大きさにたまりかねたのか、ようやく布団の中から腕がのそのそと這い出て音の源へと伸ばされる。一度、空を切った後しっかりと目覚し時計を捕まえるとスイッチオフ。一瞬の静寂。 そして一気に布団が跳ねあがる。これが御堂夏奈美の朝の光景だ。
うー、と寝起きのままならぬ声帯を低く震わせた後は迷い無くベッドから飛び降りる。 ここでの一瞬の油断で何度も遅刻した経験が身体を素早く目覚めさせる。
うーん、と先程とは違い明瞭な音をともなって背伸びをする。
そこでやっと隣で寝ているはずの氷見華がいない事に気づく。
慌てて大きな音をたてて一階に下りる。階段を降りてすぐの場所にあるトイレに目をやるがそこに人の気配はない。
夏奈美は、ほっと息をつく。
「どうしたの? そんなに大きな音をたてて」
奥のダイニング・キッチンから氷見華が顔を覗かせる。
「氷見ちゃん!」
「なんか目が覚めて。寝ようとしたけどお腹が減って寝れないから何か作ろうと思ったの。 夏奈ちゃんの朝食も出来てるわよ」
「それより体調は大丈夫?」
「まだちょっと熱っぽいの。だから今日は学校休むわ」
「私も看病のために休もうかな?」
夏奈美は昨日の事もあるのでちょっと不安だ。
「……夏奈ちゃんったら……」
苦笑する氷見華。
「気持ちは嬉しいけど大丈夫だから。それよりご飯にしましょ」
二人揃っての朝食を食べ終えると氷見華は夏奈美を見送った。
その後氷見華は予想以上に食べる事が出来た、少し食べ過ぎたくらいのお腹を抱えて部屋に戻る。
そして、ベッドに潜り込んだ。
どれくらい時間が経ったのだろう。氷見華は身体に違和感を覚え、目を覚ました。
違和感の原因は、強い吐き気と便意だ。特に下腹部を襲う便意は、氷見華が激しい下痢に襲われる時に感じる強い痛みを発している。
まだ、万全とは言えない状態で食べ過ぎたのが失敗だったのか。吐き気と便意が共鳴現象を起こしたかのように、その強さを増して行く。
「っ……!!」
激しい痛みをともなってお腹がぎゅるぎゅると音をたてる。
氷見華は便意に限界が近いことを感じた。今すぐにでもトイレに行きたい、しかし下手に身体を動かすと胃の内容物を吐いてしまいそうだ。
少しずつ、身体を起こす。
「……ぐっ……」
胃の内容物が急にせり上がってきた。思わず口許を手で押さえてなんとか嘔吐するのを堪える。
はぁはぁ、と氷見華の苦しげな息遣いが部屋に響く。
氷見華は思い切ってトイレに行くべきか、それともこの波が収まるのを待つか、と悩む。
「……あぁ!!」
お腹が音をたてる。
激しい便意が襲ってきた。身体を「く」の字に折り曲げ、お尻に穴をきゅっとすぼめて漏れ出すのをなんとか防ぐ。
もう、これ以上我慢出来ない。
氷見華はそう判断すると少しでも身体に衝撃を与えないようにそろりそろりとベッドから下りた。
氷見華の目指すのは一階のトイレだ。いつもの半分以下の歩幅でゆっくりとトイレへと向かう。右手をお腹に左手を口元にあてがい、少しへっぴり腰になりながらだ。
いつもはすぐに辿りつくトイレが今日はやけに遠い。
やっとの事で階段に辿り着いた。氷見華はこれまで以上に階段の段差を警戒しながらゆっくりと一歩踏み出した。一歩、一歩と少しでも衝撃を与えないように階段を降りる。
ようやく階段の終わりに近づいた。ここを降りればすぐにトイレだ。
最後の一段を降りようとする。ぶぴゅ……その瞬間、一瞬の安堵が隙を生んだのかお尻の穴から僅かに便が漏れる。
「……えっ!?」
漏らしてしまった。高校一年生にもなって。
どろりとした液便がお尻の辺りに気持ちの悪い感触を生み出す。
いやっ、どうしよう。パニック状態に陥った氷見華は慌ててトイレに駆け込もうと足を踏み出す。ところがまだ最後の一段を降りていないの失念していたその足は、本来あるべき地面を見付ける事が出来ずに空を切る。
「キャッ!」
思わず出た声だけを置いて、足を踏み外した身体は滑る。必死に階段の手摺を掴もうとした手は何もない空間を掴む。
どんっ、と鈍い音をたてて氷見華は激しくしりもちをついた。
ぶっ、びゅじゅるーーーー!!
「あっ、ヤダッ……ヤダッ」
目許に涙を滲ませつつ、必死に押さえようとするが一度噴出しだした下痢は止まらない。
溢れ出した下痢は氷見華のパンツをそしてパジャマの下を一気に茶色に染め上げる。そして、一階の廊下にも広がり始めた。それでもまだ止まる気配は無い。
「う……」
しかも先ほどのしりもちの衝撃は別の場所にもダメージを与えていた。
「ぐっ」
それまで忘れていた吐き気が一気に込み上げてくる。反射的に手が動く。口から溢れ出す吐瀉物を受け止めるために。
ぼたぼた、と口から吐瀉物は漏れて手に落ちる。
「ぐっ……えぐっ」
ゴボッ、ゴボゴボッ。不気味な音と共に一気に口から吐瀉物が溢れ出す。口から溢れ出した吐瀉物は朝食のおかゆの所為か白っぽい。ドロドロの吐瀉物は手の平から溢れだし、ボタボタと氷見華の胸元からふとももにかけて落ちていく。
強烈な臭気と匂いに刺激され繰り返し込み上がる吐き気、そしてえづく度にそれに合わせるにお尻から噴き出す下痢。
やっとの事で嘔吐と下痢と止まっても氷見華は呆然としたまま座り込んでいた。
昔はよく失敗もした。けれどここ数年は失敗なんてなかった。それだけにショックなのだ。
「始末……しなきゃ」
ぽつりと呟くと、氷見華はなんとか気を強く持たせようとする。
もし、これを夏奈美に見られたら夏奈美はどう思うだろう? いくら夏奈美でもきっと軽蔑するだろう。氷見華はそれが怖かった。だから、なんとしても夏奈美が家に帰ってくる前になんとかしないと、と思った。
よろよろと立ちあがる氷見華。ドロドロのパジャマはひどく重たい。
それにしてもひどい状況だった。自分の周りに出来た茶色の池、そして吐瀉物。それを見るだけで氷見華は涙が溢れそうになる。
その時、ガチャガチャ、と玄関で鍵を開ける音がする。
夏奈美が帰って来たのだ。
えっ、嘘、どうして……。
「キャッ!」
氷見華は慌てて立ちあがろうとして滑ってコケそうになる、しかしなんとか踏みとどまる。
ガチャ、っと玄関の扉が開く音がした。
「ただいま……って、何この匂い!?」
言いながら入って来た夏奈美の動きが止まる。夏奈美の視線の先には、なんだかよくわからない茶色の液状の物体が広がり、その中心で呆然と立ち尽くす氷見華の姿。その氷見華の姿も酷い事になっている。朝と同じ筈のパジャマは胸元から下側が白いドロドロのおかゆのようなものがこびりついている。また、口元にも白いものがこびりつき、自分の身体を抱きしめるようにする手も汚れている。
そこまで確認して夏奈美も何が起こったのかを理解した。
「氷見ちゃん!?」
「……いやっ!」
夏奈美の呼びかけに、思わず氷見華の瞳から涙が零れる。
夏奈美は靴を脱ぎ捨て、服が汚れるのも構わず氷見華に駆け寄る。
「ちょっ、ちょっと……服が、汚れるっ」
その姿に逆に氷見華の方が慌てる。けれどもおかまいなしの夏奈美は、ぎゅっと氷見華の身体を抱きしめる。
「氷見ちゃん……大丈夫?」
夏奈美の気遣わしげな表情に、氷見華も少し笑みを浮かべ目尻にたまった涙をぬぐった。
「……うん……それより……ごめんね」
うん、と夏奈美は首を傾げて。
「なんで謝るの! こっちが謝らないと……」
「えっ?」
「だって……私が休んで看病してたら……そしたら、こんな事にならなかったのに」
申し訳なさそうな夏奈美。
「夏奈ちゃん……」
また、氷見華の瞳から涙が溢れ出す。
「ちょっ、ちょっとどうしたの!?」
「ううん……なんでもない」
一瞬でも夏奈美を信じる事の出来なかった、それに対しての情けなさからの涙だった。
「本当に?」
「本当よ。それよりも後始末しないと……」
「ここは私がやるわ。それよりも先に服をなんとかしないとね」
氷見華は勿論の事、夏奈美の服もかなり汚れている。
「よっ」
「きゃっ」
いきなり夏奈美にお姫様だっこされた氷見華が小さく悲鳴を上げる。
「ちょっと……恥ずかしいわ」
「誰も見てないから気にしないの。それに氷見ちゃん、もうフラフラでしょ?」
「うっ」
夏奈美の言う通りだ。今の氷見華には歩くのも辛い。それほど消耗している。
夏奈美はそのまま氷見華を抱きかかえて風呂場へと向かう。
夏奈美は風呂場に辿り着くと氷見華をそっと下ろし、自分は氷見華を後ろから支えるような位置を取った。そして、最初にパジャマの上を脱がせ、それを放り投げる。更にパジャマの下をすっと下ろす。氷見華のショーツには軟らかめの下痢がたっぷりと詰まっており、ショーツの後ろから下にかけてこんもりと膨らんでいる。
「んっ……」
一瞬氷見華が身体を強張らせた。
「どうしたの?」
「まだ、ちょっと……」
氷見華の言葉を濁らせる。
「吐きそうなの? それともお腹の調子が?」
「……お腹が」
「ここで出したら?」
「えっ!?」
突然の夏奈美の提案に驚きの声を上げる。
「でっ……でもっ!!」
さすがに夏奈美の目の前でそれは恥ずかしい。
「あくっ……」
急に声を張り上げた途端にお腹がぎゅるぎゅると鳴った。
「我慢するのは身体に悪いわよ」
夏奈美は氷見華のショーツを一気に下ろした。氷見華の綺麗な形をしたお尻は下痢でひどく汚れている。ショーツにこんもりと溜まった下痢がびちゃびちゃと音をたてて下に落ちる。
「えっ、ちょっと……ヤダッ!!」
思わず声を張り上げた瞬間、びゅっ、びゅっ……っと下痢がお尻の穴から二度勢い良く噴き出した。
そして一瞬の間を置いて先程よりも量も勢いも増した下痢が激しい勢いで迸った。
「いやぁ……」
氷見華の呟きを掻き消して破裂音と風呂場の床を下痢が叩き付ける音が大きく反響する。
「全部出た?」
耳元で夏奈美が問いかける。氷見華はコクリと首を小さく縦に振った。
「それじゃあ汚れを落さないとね」
夏奈美がシャワーの蛇口を捻る。すると一気に熱いお湯がシャワーから噴き出した。
夏奈美は少し温度を調節すると、まず最初に氷見華のお尻にお湯をかける。先ほどまで茶色に染まっていた部分がお湯に洗い流されて、本来の綺麗な肌があらわになる。
そこまで終えると夏奈美は氷見華を小さな風呂場用のイスに座らせてシャワーを手に握らせた。
「ちょっと着替え取ってくるから、出来る範囲で洗い流しておいてね」
一言そう告げると夏奈美は風呂場から出ていった。
数分後。
「氷見ちゃん、入るね」
夏奈美はドアをガラガラと開いて風呂場に入ると、氷見華はすでに身体のほとんど洗い終わっていた。
「うん、綺麗になったね。それじゃあ、上がろうね」
氷見華からシャワーを受け取り、元に戻して蛇口を閉める。そして、氷見華をそっと支えるようにして脱衣所に出た。先ほどに比べると気持ちが落ち着いたせいか、足元が随分と安定している。
夏奈美はタオルを手に取ると氷見華の身体を拭き始めた。
「夏奈ちゃん……もう、大丈夫だから」
「いいのいいの、気にしないで私にまかせて」
夏奈美はすぐに拭き終えると、今度は下着・パジャマを準備した。
氷見華ももうどうにでもなれ、という気持ちで夏奈美のするがままにさせた。
「着替え終了〜」
「きゃっ」
いきなり夏奈美は氷見華の身体をお姫様だっこの体勢で持ち上げた。思わず氷見華の口から悲鳴が漏れる。
「ちょ……ちょっと」
「大丈夫、誰も見てない」
「そう言う問題じゃ無くて!」
氷見華の抗議を黙殺して夏奈美はそのまま二人の部屋に向かってずんずん歩いて行く。
部屋に到着した夏奈美は氷見華をそっと布団の上に寝かせる。
「ごめんね、迷惑ばっかりかけちゃって」
布団の上で氷見華が申し訳無さそうに謝る。
「そんな事気にしないの、私達は双子の姉妹なんだからね。全然迷惑だなんて思ってないよ」
「ごめんね…」
布団の感触に誘われたのか、それとも疲れがどっと押し寄せたのか氷見華は一気に深い眠りに落ちていった。
「……」
夏奈美はそっと毛布をかけてやると、しばしの間優しげな眼差しで氷見華の方を見つめると、小さく口を動かして何かを呟いて部屋を出ていった。